年中行事
放生会
(ほうじょうえ)
放生会の「放生」という語は、中国の『列氏』に、また日本では『続日本紀』の天武天皇5年8月17日条に「放生」という言葉が見えます。しかし、仏事としての源流はやはりインドにあり、生き物を殺さない・傷つけないという思想(アヒンサー・ahimsa)が数千年の昔から宗教や倫理観として、人々の心の底辺に流れていました。仏教も例外ではなく、守るべき行い(戒律)として不殺生を掲げます。この考え方は『梵網経』や『金光明最勝王経』など様々な経典に見られます。放生会は、他人の命も自分の命も、一切の生命が大切なものであることを儀式化したものです。
興福寺の放生会は一言観音堂で厳修します。法要の終わり近く、導師は桶に入った魚に対して戒を授けます。戒とは仏教徒にとって基本的な規則であり、人々が仏に成るためにお釈迦様の教えに参入する時に誓い、授けられるものです。それを魚にも授けます。お釈迦様は「生きとし生けるものはすべて、いつかは仏と成れる」と説かれました。仏様から見れば魚も、私たちと同じ仏の子。等しく生を受けた人間以外の代表として、魚にも仏に成るための理を教えるのです。
現在の放生会は、4月17日の13時より一言観音堂で法要を厳修し、その後、猿沢池にて『般若心経』を読誦した後に放生を行います。近年では池の生態系の維持と環境改善・保護を目的として、猿沢池に生息している在来種(モツゴ、シマヒレヨシノボリなど)を事前に採取し、法要後に改めて放生します。魚にかかる負担を考慮し、放生にはスロープを使うなど、研究機関による最新の学術研究の成果を取り入れながら伝統行事を行うことにより、生き物(命)を大切に飼うことの重要性を考える機会としております。(ご祈祷のお申込みなどは南円堂納経所まで)